こうのとりのゆりかごよりも高い確率で、事情のある親子の救済ができそうな「匿名出産」ですが、どうして日本ではその実施の検討もされないのでしょうか?
まず、金銭的な運用面での問題があります。
出産自体、基本的に自費で行うものなので、その費用はそれなりにかかるものですが、匿名出産では、様々なサポートを必要とするので、有料だと、その制度を利用できる人が限られてしまいます。
また、逆に、補助がある場合、通常に出産ができる妊婦も匿名出産を利用しようという動きにつながる場合もあります。
「妊娠葛藤相談所」も、営利目的で活動できる団体ではないので、その運営は難しいものと思われます。
それから、産婦人科の病院自体が減少していて、出産自体の受け入れが難しくなっている現状もあります。
地域によっては最寄りの分娩可能な病院まで数時間かかるとか、やっと取れた出産予約が予定日の6ヶ月前だとか、通常の出産でも安心してできる状況ではありません。
そんな中で、病院の負担が増える「匿名出産」の受け入れを望むのはとても難しいように思われます。
少なくとも、産婦人科病院の体制が整わない限り、「匿名出産」の実施が検討されることはなさそうです。
こうのとりのゆりかごを設置した慈恵病院が、その手本としているドイツでは、「匿名出産」
というものが普及しているそうです。
「匿名出産」は、事情があって養育できない子供を出産したい母親が、身元を明かすことなく、病院で安心して出産できるようにしたシステムです。
匿名で出産したい母親は、まず「妊娠葛藤相談所」というところで相談をし、その後、病院で出産。
出産後は、最長2ヶ月顔見知りのいない施設でサポートを受けながら赤ちゃんと一緒に暮らすことができます。
こうのとりのゆりかごでは、子供の養育責任を簡単に放棄する親を増やす恐れもありますが、匿名出産では、出産後の一定期間親子関係の構築ができ、また、その間、相談員が直接母親を説得することができるので、匿名出産をした母親の6割がどうにかして自分で養育すると、考えを変えるという結果が出ているようです。
また、こうのとりのゆりかごでは、第三者が母親の意思に関係なく子供を預けてしまう可能性があったり、預かり対象年齢を限定ができないのに比べ、匿名出産では、第三者が子供を預けることを防ぎ、預かり対象年齢を限定することもできます。
こうのとりのゆりかごに預けられた赤ちゃんは、医師による健康チェックを受けた後、熊本県児童相談所・熊本市役所・警察署に保護されたという内容の連絡がされます。
保護から2日以内に親が名乗り出れば、親元に帰されます。
親が名乗り出なかった場合は、乳児院で引き取られ、養護施設で養育される運びとなります。
養護施設での養育中に里親制度を利用したり、養子縁組をして特定の家庭で養育されることとなる場合もあります。
こうのとりのゆりかごは、家庭の事情でどうしても育てることができない子供を匿名で預けることができるシステムとしてスタートしましたが、連絡を受けた警察は、事件性の有無を判断するためや、健康状態の確認・現場保存といった捜査を必ず行い、場合によっては預けた親の身元を特定して事情聴取することも十分あるそうです。
もし、必ず身元が突き止められるようになるのならば、匿名で預けられるというこのシステムの重要な部分が覆されることになります。
慈恵病院・看護部長の田尻由貴子さんは、こうのとりのゆりかごに子供を預ける親には通常の遺棄と違って「助けて欲しい」という意思表示があるのだから、警察には不必要に身元を調べないようにして欲しいと強く願っているようです。
こうのとりのゆりかごは、熊本県熊本市にある 医療法人社団 聖粒会 慈恵病院に設立された、家庭の事情でどうしても育てることができない子供の命を救うための預かりシステムで、無人の窓口から赤ちゃんが預けられると、ナースセンター及び新生児室にブザーが鳴り、すぐに病院スタッフの手によって保護される仕組みになっています。
窓口の奥は、冷暖房完備の「SOS赤ちゃんとお母さんの相談室」となっていて、窓口に置かれた赤ちゃんを収容するための保育器には、赤ちゃんの体温が下がらないように遠赤外線の保温システムが付いており、また、赤ちゃんの体温や脈拍などの生体情報の計測や、それらに異常が見られるときの処置までができるようになっています。
2007年4月5日に熊本市からの認可を受け、2007年5月10日から運営が開始されました。
認可の申請中から、ニュースや新聞などで「赤ちゃんポスト」として大々的に取り上げられたため、その内容をきちんと理解しないまま、その言葉の持つ雰囲気で批判を受けたり、そのシステムによって、子供の養育責任を放棄する親の増加を助長させる恐れもあるということで認可の取り消しを求める声が上がったりもしました。